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蔵元探訪問 Vol.3 山形県『 大山 』醸造元 加藤嘉八郎酒造

無人島暮らしの1本

Book, Music, Movie, Art, Travel, Food そしてお酒、 星の数ほどある選択肢の中から、いったい人は一生のうちに幾つの感動に出会えることでしょう。感動の数が人生の豊かさのバロメータだとすると、豊かになるには 「人に聴く、人に教わる」のも手っ取り早いかも知れません。 知人でも初対面でも「最近何か面白い本読んだ? 面白い映画観た? 美味しいお酒 飲んだ?」。すると必ず新しいヒントが得られます。そこからまた自分の好みを広げてゆけば感動の数は順調に増えますねきっと。

日本酒も同じこと。そもそも嗜好品なので好みはひとそれぞれ。100人に聴けば100の答かもしれません。
そんな中で、もし貴方から、『これから終生無人島で暮らすことになります。お酒は1銘柄だけしか持って行けません。さてあなたなら何を選びますか?』と問われたとしましょう。1銘柄のみと限定されて迷わずお応えするのが 『 大山 』の特別純米酒です。 何故か? まず、父がこなく愛した酒でありその影響が大きいのも確かですが、その淡麗《旨》辛口の味わいはお料理を選ばず何でも美味しくいただけます。冷やしてよし、常温よし、燗をつけて更によし。 1年を通して飲み飽きのしない秀逸の一本です。 無人島暮らしにはもってこいのお酒でしょ。

「東北の小灘」 大山

ご縁があって、その『 大山 』の醸造元 加藤嘉八郎酒造を見学させていただく機会に恵まれました。
時は5月、前週から田植えが始まり、春の遅い山形庄内地方もまさに「水温む」の季節。
こごみ、たらの芽、孟宗竹、天然ウドにふきと 山には山菜がにぎわい、酒田川河口では三年回遊してきた“桜鱒”があがるそうです。 これらを肴に『大山』をいただけるとなると期待はいよいよ高まります。

『 大山 』とはそもそも地名。現在の山形県鶴岡市にあたります。大山はかつて「東北の小灘」と呼ばれ酒造りのメッカのひとつでした。庄内平野のほぼ中心に位置し、北には東北の麗峰鳥海山に五月雨を集めてはやし最上川。東には月山、湯殿山、羽黒山の出羽三山が連なります。広大で肥沃な穀倉地帯には豊かに米が実り、山々の雪解け水は酒造りに最適という自然環境に加え、北前船の港を抱えるという経済的立地条件に恵まれた所以です。全盛期には四十あまりの醸造元が軒を並べ、『大山酒 』と呼ばれるこの地のお酒は江戸・明治の昔全国各地で人気を博したそうです。

でも今、この地に残る蔵元は四軒のみ
羽根田酒造 『羽前白雪』 文禄元年(1592年)~
渡會本店   『出羽の雪』 寛永15年(1638年)~
冨士酒造   『栄光冨士』 宝暦7年(1757年)~
加藤嘉八郎酒造 『大山』 明治5年(1872年)~

どれも時代の趨勢をくぐり激動を生き抜いて大山酒の伝統を伝える銘醸蔵ですが、中でも加藤嘉八郎酒造は一番若く、200年、300年の歴史が当たり前の酒造メーカーの中では若干140歳の新興蔵とでも申しましょうか。

本田宗一郎とエジソンとがいる蔵

さて、蔵元見学レポートです。
よほどご興味がなければとっつき難い内容かも知れませんが、美味しい日本酒にご興味をお持ちの方ならば、この加藤嘉八郎酒造は必修科目のひとつであると言っても過言ではないかも知れません。一言で表すなら「伝統の酒造りに産業革命を起こした蔵」、もしくは「地酒業界の本田宗一郎とエジソンとがいる蔵」とでも言ってしまいましょうか。もし、NHKの人気番組の一つ『プロジェクトX』が今なお続き、私がプロデューサーであったらとしたら間違いなくこの蔵をテーマにします。

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この蔵の最大の功績は、酒造りの伝統の良さを生かしながら、その労働集約的な非合理的作業工程にメスを入れ、巨費を投じて醸造の装置化に業界の先陣をきって取り組んだことです。その結果として、品質の均一化、究極の再現性が実現し、酒の品質の向上はもちろんのこと、蔵人の労働の質の向上にも成功したのです。

こう書くと、「なんだ、古い酒蔵が少し機械化されただけか」と思われがちですが、それは違います。
その意義を知る為には、日本酒の製造過程を今一度振り返る必要がありますね。

日本酒の醸造技術は世界最高水準

そもそも日本酒の醸造とは最初に糖ありきではありません。ここがワインと決定的に違うところです。
糖は放っておけば空気中の酵母によって自然にアルコールになることがあります。しかし、日本酒はまず米(=澱粉)ありき。まず麹菌が澱粉を食べて糖に変え、これを酵母が食べてアルコールを生み出します。
しかもこれらがひとところで同時並行的に進行することから「並行複発酵」と呼ばれ、他に例を見ない世界で最も高度な醸造技術を必要とするアルコール飲料なのです。私が日本酒に「プライド」を感じるのはここです。 

酒造りはいったんその行程が始まると、麹菌や酵母菌は24時間連続して休むことなく活動し変化し続けます。良い酒を造る最大のポイントは麹菌や酵母菌との対話だと言われます。米、水、温度、湿度などの外的環境条件と、発酵によって変化する内的環境条件の変動を常に的確に把握し、麹菌と酵母菌の「ため息や、と息」に耳を傾けながら、それらが要求する条件をダイナミックに感知して的確に処遇してゆく。
古来、日本酒の造りではこれら全ての作業を匠の蔵人達がその経験と研ぎ澄まされた五感、そして体力を総動員して休むことなく昼夜兼行で行ってきました。今も大半の蔵がそのようです。その作業は極寒の冬に早朝から夜中にまで及び数ヶ月にわたります。例えば、麹造りの床揉み、切り返し、薄盛り、仲・仕舞い仕事の正確な手入れに品温の平均化と管理の徹底。例えば、一瞬たりとも気の抜けないもろみの発酵過程観察とその制御・温度管理(櫂入れなど)。蔵人たちは休む間もなく恒常的な睡眠不足に見舞われ、労働の質の低下がミスの誘発を招くリスクがありあす。蔵人の仕事は本当に過酷なのです。その過酷な仕事を成し遂げるのが蔵人たちの「日本の酒」を醸すプライドと情熱。日本酒の「美味しい」はやはり格別だと思います。

でも、そのままでは高品質な製品を限りなく均等に大量に製造することは困難であり、生産量が増えれば増えるほど品質保持の限界に直面します。『大山』を愛する全てのファンの為に、愛すべき蔵人たちの為に。加藤嘉八郎酒造蔵元には、敢然として立ち向かうべき経営命題がそこに見えたのです。

再現性が高く均一な高品質の酒を造り続け、蔵人達を慢性疲労と睡眠不足から解放する。この命題実現の為に“醸造の装置化”という当時では常識はずれと言われた装置化革命の英断を下したのが現当主4代目蔵元加藤有造社長です。当時、業界では「異端児」、「奇人(貴人?)」などとも言われたそうです。更に、その命を受けて装置開発と実装に奮闘・奔走されたのが、現取締役 加藤正工場長です。欲しいものが無ければ、すかさずご自分で造ってしまわれると言う機械の達人です。加藤工場長は社長の妹婿にあたられます。
私が前出の本田宗一郎とエジソンに例えたのはこのお二人です。お二人を初めとする関係者達の執念にも似た想いの結晶が、昭和48年完成の仕込みタンク “OS式タンク”と、昭和53年完成の“OKS自動製麹装置”です。私も知りませんでした、こんなにすごい蔵だったとは。 ただ「『大山』の特別純米酒は美味しい」と思ういちファンに過ぎませんでしたので。

OS式タンク

“OS式タンク”とはもろみの仕込みタンク。巨大な円筒で(縦3mほど)底が半球になっています。中にはこれまた巨大な薙刀のような(断面が三角形の)金属の羽が取り付けられ、これがぐるぐる回ることで櫂入れの代わりを果たすのです。低速から高速まで、正回転にも逆回転にも。マニュアルとタイマーによる自動運転が可能です。タンク内には上段・中段・下段に温度センサーが設置されタンクの温度が的確に管理されます。上から覗き込み、下のハッチからも覗き込みました。何本ものこの巨大タンクの上に立つと「核燃料再処理工場ってこんな感じなのかな」とさえ思います。一般的な酒蔵のいわゆる仕込みタンクの風景とはかなり趣が異なります。実際に羽が回るところも見せて頂きました。金属の巨大な羽が粛然と回る様はどこか荘厳な雰囲気がありました。制御盤でもろみのありとあらゆる温度・時間の管理制御が可能です。

OKS自動製麹装置

“OKS自動製麹装置”は読んで字のごとく自動的に麹を造る装置です。機械に任せるべきところを完璧に機械に任せ、「ここぞ」という作業工程に人はその五感と経験を最大限に集中させます。引き込み床も盛り床も温水循環や上蓋の発熱体によって完璧な保温設定・管理が可能。最適な通風条件や通風量、通風方向までに管理がゆき届きます。人は引き込まれてくる蒸し米に、フマキラーのエアゾール噴霧器のような器具に入れた麹菌を振り掛けて行くだけ。でもこれは経験の技を必要とします。
内気、外気導入、ファンの回転数、ラジエターを通る冷水および温水量の規制による通気の温・湿度の調整によって最適な温度管理・通風条件をフレキシブルに設定可能なのだそうです。
これらの組み合わせに作動時間を掛け合わせて、麹の予定品温経過をプログラミングすることで、無限の柔軟性と可能性を追求できるのです。造り手の創造力と能力に応じてどんな品質の麹でも製造できるそうです。すごいですね。

伝統とは留まるものではなく、流れるもの

さて、“OKS自動製麹装置”と“OS式タンク”を駆使して醸される『 大山 』ですが、その味わいの素晴らしさは全国新酒鑑評会金賞受賞の折り紙つき。さる5月に発表された平成20年度も大吟醸が金賞受賞。過去7年間で金賞4回、銀賞2回という実力です。
地酒には「手造り」を尊ぶ風潮があります。確かに手作りの丁寧、温もり、安全・安心、真心はファンのハートを魅了します。でも、可能なところを装置化することで、より高い次元の丁寧、温もり、安心・安全、真心を消費者に届ける。 
「伝統とは留まるものではなく、流れるもの。 伝統とは守るだけのものではなく、育てるもの」 
これが『 大山 』を醸す加藤嘉八郎酒造の伝統の酒造りの精神なのです。

皆さんも機会があったら是非お試し下さいね。
日本名門酒会にお問合わせされれば、お近くの酒屋さんを御紹介してくれますよ。
お問い合わせhttp://www.meimonshu.jp/modules/contact/
加藤嘉八郎酒造は近々『日本酒こんしぇるじゅ』にご参加して下さる予定です。ご期待下さい。

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by takako